三田祐司専務取締役
(渋谷 松川/東京都渋谷区)
『数百年の長きに渡り、 連綿と続いてきた鰻屋の誇りを大切に』
業界のお祭りでもある土用丑の日(7月29日)は盛況のうちに終了した。今年は遅い丑の日と連日のうだるような暑さから、好調さが続いているという。振り返れば、メディアのウナギに関連した報道は、IUCNによるニホンウナギ絶滅危惧種選定の話題などとにかく目立った。そのなかで一般消費者の反応にはどんなものがあったのだろうか?
「私ども弊社社長もメディアに出演させていただきましたが、とにかく土用丑に向けてウナギに関連する報道が目立ちました。しかし一部では“ウナギがもう食べられなくなる”などあおるような報道もあった影響か、お客様の中には本当にウナギが食べられなくなると誤解している方もいらっしゃいました。また同業の鰻屋さんのなかにも現状を把握しきれていない方も見受けられ、今後は改めて情報の“交通整理”も必要ではないでしょうか」
今シーズンはシラスウナギが採れたことで業界もほっと一息つけた。しかし、前述したようにニホンウナギは今や絶滅危惧種として選定され、水産庁も近年、ウナギ資源管理を進めてきているが、貴店では資源保護についてどう考えているか。
「基本的に資源保護のひとつとして業界あげて“親ウナギ”を採らない方向で進めていく事が大事でしょう。過去、ウナギは“ごちそう”から“総菜”となり、消費の裾野は広がりましたが、それを要因に天然資源が少なからず、減少していったこともひとつでしょう。そうした課題を将来的な解決策のひとつとしては、まだ時間がかかると思われますが、完全養殖の商業化など技術革新でしょう」
資源の問題は無論、鰻屋にとってウナギ職人不足も将来の懸念材料として挙げられるが、何らかの対応策はあるのだろうか。
「職人斡旋所に働きかけ5年程前から、調理師専門学校から若い子を入れていましたが、なかなか続きませんでした。やめた理由には様々あると思いますが、蒲焼店業界全体としても、求人などで“うなぎやで働きたい”と思わせる事を考えていくことも大切ですね。これまではシラス不漁を背景とした相場高騰による厳しい状況下、“今”をどう乗り越えるかに必死でなかなか頭が回りませんでしたが、今年はシラスが多少採れたということで、今後はもっとそうした面の対応も深く考えいこうと思います。
またPRについて、あえて販促というよりか、まずは当たり前の事を当たり前のようにこなし、お客さんの満足度を高めることです」
最後に鰻屋さんとして厳しい環境下、今後、どう進んでいくべきだろうか。
「今も昔も“鰻屋”さんとして生き残っていきたいし、100年先も鰻屋としてあり続けないといけないと思います。これからも時を刻んでいくなか、もちろん同じことだけを繰り返してはいけませんし、その時々で新しい要素などを上手に取り入れることも必要でしょう。いずれにしても、数百年の長きに渡り、連綿と続いてきたうなぎ文化とともに歩んできた鰻屋の誇りを大切にしつつ、次代に向けて進んでいきたいですね」
[データ]
「渋谷 松川(駅前本店)」
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町22-1
電話:03-3461-1065

*「蒲焼店が考える“これから”」は現在、日本養殖新聞で連載中