古賀秀喜店主
(うなぎ処古賀/さいたま市桜区)
『ウナギ資源問題以上に うなぎ職人不足が身近な問題として深刻』
土用丑の日(7月29日)をはじめ、お盆もまずまずの荷動きとなった夏商戦。今年は例年に比べ、丑の日が遅かった事から、その余韻が続き、さらに連日の暑さがウナギ消費を後押しした格好だ。
一方、業界内外の注目を集めるウナギ資源問題。近年のシラスウナギ不漁は無論、6月のIUCNによるニホンウナギの絶滅危惧種選定により、多くのメディアがこれを取り上げ、煽るような記事も散見されるなど一部の消費者からは、『もう、うなぎは食べられなくなる』、そんな声さえ聞かれた。IUCNによる発表から2ヶ月余、売れ行きに何らかの変化はあるのだろうか。
「ニホンウナギの絶滅危惧種指定報道による影響はとくにありません。ただ、問い合わせで多かったのはやはり“ウナギは、もう食べられなくなるの?”といったものばかりでした。その都度、私どもでは、“IUCNレッドリストへの掲載というのは食べられなくなるということではなく、ウナギ資源はより大事に守られるようになるという事ですよ”とその都度、説明しています。それよりもやはり、一番、影響があったのはこれまでの原料価格高騰により、値上げを余儀なくされ、結果、お客様が減少した事ですね」
シラスウナギが5年ぶりに好漁となったが、ウナギ資源保護管理の動きは以前にも増して活発化、“養鰻生産量の制限“といった報道も見受けられる。貴店では資源保護に対してどのような考えを持っているのか。
「私が所属する”浦和のうなぎを育てる会“では昨年、ウナギの完全養殖に成功した三重県の水産総合研究センター・増養殖研究所を見学しました。今後は”いかに、量産をしていくか“というお話を伺い、改めて衝撃を受けました。資源保護に関しては、”天然ウナギを採るな”、あるいは“シラスウナギを採るな”など意見も分かれているようですが、どちらも一方的に“採るな”ということは正直、難しい話だと思います。それよりも、まずは大切な“資源”だからこそ、ロスを防ぐ事が大切だと思います。私どもも一匹、一匹、より大切に扱う事は無論、加工品も無駄が出ないよう、注意を払ってほしいと思います。さきほどの話に戻りますが、完全養殖が商業ベースに乗る事が“ウナギ資源保護”につながる一番の近道だと思っています」
資源問題の一方で、あまり取り沙汰されないウナギ職人不足の問題についてはどう見ているのだろうか。
「私は、むしろ、ウナギがいなくなる事よりも、職人不足が我々身近な問題としてとくに深刻だと見ています。時々、この件について経営者同士でお話をさせていただくのですが、危機感を持っている人が少なすぎると思います。私も調理士紹介所出身でとくに職人問題は身にしみて感じていますし、職人の高齢化も進んでいます。まずは専門店に係る人たちが本気で危機感を持つ事、それにより職人の育成、確保についてのアイデアもいろいろと出てくると思います。現状ではなかなか良いアイデアがないのが正直なところです。若い子に興味を持ってもらうために、鰻蒲焼専門店の魅力をどうアピールするとか、まだまだ考える事はたくさんあります。将来、ウナギ資源が回復しても、職人さんがいなければ話になりませんからね」
近年、価格高騰でウナギ離れを起こしてしまったが、再び、お客さんを取り戻すためにはどうすればよいのか。
「私どもでは、会として協力している浦和のうなぎまつりを年1回だけでなく、小規模なものでも良いから、年2〜3回実施し、資源の大切さを訴えつつ、うなぎを食べるという“文化”もアピールしていきたいですね」
かつてないほど、様々な課題が山積するうなぎ業界だが、これからはどう歩んでいくべきか、またSNSについてはどのような意見をもっているのだろうか。
「商売の仕方は十人十色。周りの環境が昔と変わろうが、下手に自身のスタンスは変えずにしっかりとした料理を適正な価格で常に提供していく事が基本。またLINE、Facebook等は積極的に利用していくべきだと思います。全国の方との情報交換も容易ですし、使っていない方はひとつの情報ツールとして是非とも活用するべきだと思うし、様々なツールを活用する事で世界が広がると思います」
[データ]
「うなぎ処 古賀」
〒338-0837 さいたま市桜区田島5-10-5
土屋第5ビル108
tel:048-753-9986

*「蒲焼店が考える“これから”」は現在、日本養殖新聞で連載中